@hiro_takai
高井宏章
2 years
一昔前の新聞社は軍隊みたいな組織で、入社が1年違えば「おい、お前」の世界だった。だからこそ「それはおかしい」というまともな姿勢の大先輩の記憶は鮮明で、若いうちにお手本に出会えたのは幸運だった。 Sさんは社内外の尊敬を集める論客だった。 入社した年の夏のある日、本社でSさんをみかけた。
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Replies

@hiro_takai
高井宏章
2 years
長身で長髪のSさんが、本社ビルのガラスドアの勝手口から半身を出したところで軽く振り返った。目が合ったので会釈すると、Sさんはドアを開けて私を待ってくれた。 慌てて駆け寄って「ありがとうございます」と頭を下げた。Sさんが言った。 「高井くん、記者は面白いかい?」 ビックリした。
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
Sさんとは記者クラブが別で話したことは無く、顔を合わせたのも数度だった。 なのに新人の名前を憶えていて、ドアを開けて待って声をかけてくれた。 少し雑談すると、Sさんは渋い笑顔で頷き、「それじゃ」とヒラヒラと肩越しに手を振って立ち去った。夏の日差しの中の後ろ姿が今も瞼に焼き付いている。
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
翌年、Sさんと同じクラブに移った。 尻の青い高井記者が夜、自席で原稿を書いていると、愛煙家のSさんがタバコを燻らせながら私の席に来て言った。 「忙しいところ申し訳ないが、高井くん、ちょっと教えてもらえますか」 耳を疑った。Sさんに「教える」なんて。
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
その頃、私はある著名な経済人から「Sさんのコラムは別格だ。すべて切り抜いて繰り返し読んでいる」と聞いて「凄い人と一緒に仕事しているんだ」と改めて実感していたところだった。 「私に分かることでしたら…」 Sさんの質問はマニアックなテーマで、たまたま私は最新情報を仕入れたばかりだった。
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
私の取材の内容をSさんは眉間にしわを寄せながらメモをとりつつ聞いてくれた。一通り説明して、コピーをお渡ししようと取材先の名刺を取り出すと、Sさんが、 「ありがとう、自分でやりますから」 とコピー機に向かった。 戻ってきて、 「本当に助かりました。ありがとう」 とお礼を繰り返した。
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
今なら「丁寧な人だな」という程度の話かもしれない。 だが、当時の旧陸軍みたいな組織のなかで、親子ほど年の差がある私にSさんが対等に接してくれたのは、稀有な体験だった。 その後も仕事や酒席でご一緒しても、一度も「先輩風」を吹かすことはなかった。 そんなSさんから、私は大事なことを学んだ
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
それは、 「記者は、新人であろうとベテランであろうと対等のプロであり、それ以前に対等の人間なのだ」 という姿勢だ。 対等に接しながら、プロとして恥ずかしくないよう自分を磨き、相手にもそれを求める。 私の基本スタンスは、その頃から変わらない。
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@hiro_takai
高井宏章
2 years
Sさんの思い出も含めて、私には手の届かない美徳である「気高さ」を持った人と出会った思い出をこちらのnoteにまとめています。 お時間あるときに、どうぞ。
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@25y2777cB9WqUB6
ムック
2 years
@hiro_takai 通りすがりですが Sさんの言葉が全て小林清志さんで脳内再生されました
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